
元気印の仲卸訪問(11)
~ITで業務改革~
 豊洲市場仲卸のマルツ尾清(東京都江東区、桐ヶ谷正裕社長)は、鮮魚や特種、活魚、冷凍や塩干品といった多種多様な水産物の取り扱いに強みを持つ、1936年創業の老舗だ。都内飲食店への販売を主軸に、アジア圏や米国への輸出にも精力的に取り組んでいる。日常的に取引する顧客数は400~500件で、1日の取引品目は1000品を超えるなど業務は多忙を極める。同社は現在、東新システムが提供する仲卸向けの販売管理システム「いちばクラウド魚問屋」を導入している。受注・茶屋札(出荷・配送用の荷札)発行から帳場伝票発行につながる一気通貫のデジタル処理や、卸売会社からの売り渡し情報が電子データで届く「水産物流通EDIネットワークシステム(マリネット)」(運用・豊洲市場協会)のデータを活用し、大幅な業務の効率化を達成している。

アジア圏や米国向けの輸出にも精力的に取り組む。
得意とする目利きで顧客ニーズに対応できることも強み。

マルツ尾清は正社員28人を抱える規模の仲卸だ。寿司屋や居酒屋、フレンチ、イタリアンレストランなどの業務筋を中心に、顧客からの注文に応じて目利きしたえりすぐりの水産物を販売している。13人が所属する配送部隊を持ち、銀座や渋谷、新宿、池袋、六本木など都心部への配送も手掛ける。営業部の斉藤貴生部長は「全体の7割は自社配送でカバーできている」と話す。
また、アジア圏を中心とした輸出事業にも力を入れており、今年4月からは米国向けに高級水産物の出荷を始めた。高品質な日本産水産物へのまなざしは熱い。同社が得意とする目利きで、顧客ニーズに柔軟に対応できることも強みだ。
受注を電子化し、全部門の業務時間を1〜2時間短縮。
次なる業務効率化に向け、マリネットシステムの活用を模索。

同社は旧築地市場時代の2003年、東新システムが展開する旧タイプの「Mr.魚問屋」を導入し、数合わせなど管理の強化と業務効率の改善を実現した。15年、「いちばクラウド魚問屋」への移行とともに、さらなる改革に着手。深夜の茶屋札の手書き業務を電子化するとともに、そのデータを帳場に直結してそのまま伝票発行につなげることに成功した。この一気通貫のシステム処理により、全部門の業務時間が1〜2時間短縮、締め日月末の業務は2〜3時間も短縮された。
同社は次なる業務効率化に向け、マリネットシステムの活用を模索していた。同システムは築地時代の02年から運用されてきたが、なかなか活用が進まなかったという。その理由の一つに、売り渡し情報(仲卸から見れば仕入れデータ)の提供時間帯が遅かったことがある。豊洲市場の仲卸は、昼ごろまでには仕入れと売りを突き合わせてチェックする「数合せ」業務を終え、営業担当者が退勤する会社が多い。しかし当初、マリネットで仕入れ情報が取れるのは午後1時以降であった。
帳場の電子化を達成した同社は、店舗営業が終了した時点で売り上げデータの入力が完了している。しかし仕入れに関しては、ファクスで卸売会社から届く速報情報をPC(パソコン)に手入力しなければ「数合せ表」を出力できず、ファクスを待つ時間が無駄になる上、入力に手間と時間がかかり常に打ち間違いのリスクと隣り合わせだった。
23年2月にマリネットシステム強化、4月には新システム稼働。
独自のプログラムを開発し、仕入れ・数合わせの前倒し化を実現。

マリネットを活用するため、桐ヶ谷社長は卸売会社と相談を重ねた。その結果、23年2月にはマリネットシステムが強化され、現在は午前10時の時点で約8割の情報が届くようになった。桐ヶ谷社長は早速、東新システムにマリネットのデータ活用を依頼し、23年4月には新システムが稼働した。
マルツ尾清は現在、毎日午前10時にマリネットからCSVデータをダウンロードして自社の販売管理システムに取り込む。マリネット上のデータには卸売会社の商品コードがなく、自社の商品コードへの変換が難しいという。
東新システムでは、複雑な構造を持つマリネットデータを取り込む独自のプログラムを開発。結果、仕入れ入力に要していた作業は30分短縮された。営業担当者に数合せ表を送る時間も早くなり、各担当者が当日の損益を把握する時間も短縮できた。斉藤部長は「会社全体の業務終了時間も早くなっている」と手応えを語る。
マリネットの活用でさらなる業務効率化を達成したマルツ尾清。しかし現状のマリネットは、一度データをダウンロードするとそれ以降にアップロードされたデータのみを抽出することができないという。そのため、現在もファクス情報を確認し、未入力のデータを探して入力する作業が必要になる。斉藤部長は、卸売会社の協力でデータ提供の時間が早まれば、さらなる業務の迅速化につながると期待する。
コロナ禍では海外への販路開拓をはじめとする新ビジネスを探った。 いまはインバウンド需要や海外の和食人気をチャンスと捉えている。

現在、首都圏は多くの訪日外国人観光客でにぎわい、業務筋を中心に消費が旺盛だ。しかし、斉藤部長は新型コロナウイルス感染症が猛威を振るった20年当時を振り返り、「(飲食店の休業により)当社の売り上げも8〜9割減になるなど厳しい状況だった」と話す。
新型コロナ感染症拡大当時は、行き場を失った高級水産物が値崩れするなど苦しい状況が続いた。しかし同社はそのような逆境下にも、海外への販路開拓をはじめ新ビジネスを模索してきた。
「種をまいてきた部分が今、実を結びつつある」と斉藤部長。現在のインバウンド需要の盛り上がりや海外の和食人気を好機と捉え、さらなるビジネスチャンスを見いだしていく考えだ。
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