導入事例  
豊洲市場・佃熊 ※みなと新聞 2021年7月9日掲載

元気印の仲卸訪問(8)
~ITで業務改革~

豊洲市場(東京都江東区)仲卸の佃熊(山田健社長)は、エビやマグロを中心にイクラなど冷凍品の取り扱いに強みを持ち、飲食店やホテル・結婚式場など、地方発送を含め多様な形態の顧客を抱える。その中でも、近年事業を拡大しているのが顧客の注文に応じて豊洲市場内外から商材を調達、配達までを手掛ける「納め部門」だ。2019年、同部門の業務効率化やさらなる事業拡大のため、30年以上利用してきた仲卸向けの販売管理システム、東新システムの「いちばクラウド魚問屋」を大胆に拡張。iPadを活用した受注・買い回りの管理システムを構築、業務効率の大幅な改善、売り漏れなどのミスの削減を実現した。本システムは、その先進的な取り組みが評価され、東京都の市場活性化支援事業にも認定されている。

市場すべての商品を取り扱う「納め部門」の
拡大への課題は、“手書き”の非効率性だった。


佃熊は1950年の創業以降、エビからマグロ、冷凍魚卵など取り扱い商材を増やし、各商材に「仕入れのスペシャリスト」をそろえることで顧客一人一人に丁寧に向き合うきめ細やかな販売を進めてきた。

2016年には業務筋を対象に注文から配達までを一貫して担う営業2部「納め部門」を設置。営業担当者がエリアごとに顧客を持ち、品目ごとに分担して仕入れを行う。自社で普段は扱わない青果、砥石(といし)などまで「市場の全ての商品を取り扱う」ことを強みとする。

しかし同部門を展開・拡大していく上で、手書きでの茶屋札(出荷・配送用の荷札)や各種伝票の作成など業務の非効率性が課題となっていた。ファックスや留守番電話などから入る注文を顧客ごとに紙に書き出して集計した後、茶屋札や納品伝票などを転記作成していく業務は、手間と時間がかかるだけでなく、転記や集計の間違いによる納品ミス、納品伝票や請求書のミスといったリスクと隣り合わせだった。

課題解決のために一連の業務をシステム化。
目指したのは、ペーパーレスの運用と優れた操作性。


そうした問題を一気に解決すべく、納め部門の経理を担当する水野晃一氏が中心となって思い切ったシステムの強化に着手した。まず、日々の業務を洗い出して整理。これをもとに東新システムの担当システムエンジニア(SE)と綿密な打ち合わせを重ね、受注情報の入力から茶屋札発行、現場での買い回りから納品書の発行に至る一連の業務のシステム化に取り組んだ。

目指したのは、すべての情報がシステム上で連動するペーパーレスの運用、そしてシステム利用の経験がない担当者でも安心して活用できる操作性だ。機能面だけでなく、品目や規格などのマスタ(入力項目、分類)類も丁寧に整理していった。

タブレットで効率の良い“買い回り”を実現。
「数合せ表」で仕入れ・売り上げ・在庫を比較チェック。


同システムでは、営業担当者に各1台のiPadを配布した。早朝、顧客からの注文を入力し、茶屋札を発行したらタブレットを持って仕入れに出る。従来手書きしていた品目ごとの「買いまわり表」は廃止、タブレットでデータを参照しながら市場内を回り、タッチ式のパネルを活用して目方・仕入れ値を入力していく。

情報は豊洲市場内に張り巡らされた「統合ネットワーク」を通じてクラウドに直結する。顧客担当者が顧客別にデータを呼び出し、過去の履歴なども参照しながら売価を決定、納品伝票の発行を指示すると、事務所のプリンターに出力される仕組みだ。

買い回りが終了したら、「数合せ表」を利用して仕入れ・売り上げ・在庫を比較チェックする。「このシステムはミスを検出する能力が素晴らしい」(水野氏)。現場で発生しがちなミスを確実に検出し修正、正確な納品伝票を発行でき、山田社長も「顧客からの信頼獲得にも一役買っている」と評価する。

経営の“見える化”や働き方改革にも貢献。
業務量の拡大にも対応できる体制が整った。


仲卸専用の販売管理システム「いちばクラウド魚問屋」は、水産に特化したフルラインの機能を持つ。売掛、買掛管理をはじめ、さまざまな形態の在庫管理に対応、帳場での売り上げ入力や伝票発行処理ができ、経営の“見える化”や従業員の働き方改革に役立てることができる。

本システムの稼働後、同社では事務担当者が3時間ほども早く帰れるようになったという。また業務が標準化され、正確に遂行できるようになり、業務量の拡大にも対応できる体制が整った。

新型コロナ禍による業務筋からの需要低迷や、市場外流通の活発化による市場経由率の低下など、卸売市場にとって厳しい状況が続く。その中で山田社長は「安定して商材を届けるなど、市場が(流通に)占める役割は大きい」と力を込める。また、「コロナ明けにはどんどん需要が出る」ことを見越し、いちばクラウド魚問屋を活用した納め部門のさらなる事業拡大を図る。同社は今後も「一人一人の顧客を大切に、より細かなところに手が届く」(山田社長)販売を続けていく。